愛知県立大学の留学制度

製造業が盛んな愛知県は世界中から多くの人々が訪れ、仕事をしながら生活しています。

愛知県立大学は、異文化理解や多文化共生を最も身近に感じられる地域に位置した大学と言えるでしょう。

そんな愛知県立大学には、豊富な協定大学と充実した留学プログラムがあり、外国語学部の学生を中心に、多くの学生が留学に挑戦しています。

また、留学だけでなく学内での国際交流の機会もあるのが魅力です。

今回は愛知県立大学留学支援室長の月田教授に、グローバル教育や留学制度について詳しくお話を伺いました。

モノづくり日本一!愛知県ならではのグローバル人材育成の取り組み

愛知県立大学の校舎

── 愛知県立大学が掲げるグローバル教育の方針を教えてください。

愛知県立大学がある愛知県は、モノづくり日本一の地域として、外国籍の人も多く住んでいます。全国的に見ても、ローカルにおけるグローバル化が進んだ地域と言えるでしょう。

近年では、東南アジア諸国からの移住者も増加しており、文化的多様性の変容も見られます。

愛知県としては、この新しい時代における新たな課題への対応を進めていく必要があるとし、多文化共生の理解を深め、グローバルに活躍する人材の育成を重要な課題と位置づけました。

そこで、愛知県立大学では2012年から文部科学省の助成を受けて、まずは外国語学部で経済社会の発展を牽引するグローバル人材育成支援プログラムを実施しました。

2021年からは「愛県大グローバル人材育成事業」という名前でこのプログラムを発展させ、全学部・全学年での事業遂行体制を整えてきました。

この事業では、「異文化理解・多文化共生」に重きを置き、地域のグローバル化に伴うさまざまな課題に取り組み、それらを解決するための実践的な能力の養成を目標として掲げております。

そのために、語学の授業で高い語学力の養成を目指すだけでなく、フィールドワークやPBL型の授業など、学部を横断した実践的な科目を組み込んでおります。

※ PBL型(プロジェクト型)とは「課題解決型」とも言われ、生徒が自ら解決すべき課題を見つけ、その課題を自ら解決するために取り組む学習方法のことを言う。

これは、学生がチャレンジしやすい教養科目中心のプログラムとなっているので、多くの学生に参加してほしいと考えております。

また、多文化共生への理解を深めるために、大学の内外で国際交流の機会をさらに増やしていきたいとも考えております。

── 早くからグローバル教育に高い意識を持って取り組んでいらっしゃるのですね。

愛知県立大学の留学制度は豊富な協定大学と多様なプログラムが魅力

── 愛知県立大学の留学制度の特徴や、魅力を教えてください。

愛知県立大学の留学制度の魅力は、協定大学の豊富さです。現在は24カ国・地域、61大学と学術交流協定を結んでいます。

2024年度は68名の学生が交換・派遣留学のプログラムを通じて留学しました。

また、協定大学が豊富であることから、多様な留学プログラムを提供できるのも、魅力のひとつです。

後ほど詳しくご紹介しますが、協定大学への半年から1年の交換留学、あるいは派遣留学のプログラムがあります。

その他、夏休みや春休みの長期休暇を利用して参加できるショートプログラムも提供しています。

ショートプログラムは、外国語学部の学生はもちろん、教養科目で英語やその他の外国語の授業を取っている学生も参加可能です。

看護学部では、看護や医療に関連したプログラムを含む短期の海外研修を実施していて、多くの学生が参加しています。

── では、愛知県立大学の主な留学プログラムを詳しく教えてください。

大きく分けると、愛知県立大学の留学制度は協定大学への留学と、一般留学の2つに分類できます。

協定大学は愛知県立大学と協定を結んでいる大学のことで、交換留学、派遣留学、ショートプログラム、ダブルディグリー・プログラムの4つのプログラムがあります。

交換留学と派遣留学は、どちらも半年から1年の長期留学です。

交換留学の場合は、協定大学からも留学生を受け入れることで、相互に授業料が免除されるため、交換留学に参加する県大生は留学先の授業料が免除されます。

一方、派遣留学はこちらから学生を派遣するのみで、留学先の大学からの学生の受け入れはないため、授業料は自己負担となります。

ショートプログラムは、夏休みや春休みを利用した3~4週間程度の短期研修で、こちらも自費での留学となります。

── ダブルディグリー・プログラムとはどういったプログラムですか?

ダブルディグリー・プログラムは、4年間で2つの大学の学士号を取得できるプログラムです。

前半の2年間を愛知県立大学で、後半の2年間を留学先の大学で学び、必要な単位を履修することで、2つの大学の学位を取得できます。

このプログラムのメリットは、愛知県立大学の授業料のみで2つの大学の学位を取得できる点です。

現在は台湾の静宜大学台湾文学科に限定されているのですが、台湾文学の分野に興味のある学生にとっては非常に良い挑戦になると考えています。

── 協定留学への留学プログラムがとても充実していますね。一般留学についてはどういったものになるのでしょうか?

一般留学は、協定大学以外の大学や語学学校に留学することを言います。

行きたい国や学びたい内容、留学先の大学を自分で決めることができるので、非常に自由度が高い留学と言えます。

一般留学の場合は、生協や留学エージェントのほか、本学が提携しているSAFを通じて手続きを行うのが一般的です。

※ SAF(スタディ・アブロード・ファウンデーション(Study Abroad Foundation))とは、国際留学支援団体のこと。10か国に提携大学を持ち、大学生の留学をサポートしている。

また、語学留学だけでなく、海外インターンシッププログラムやボランティアに参加するなど、目的に合わせて留学する学生もいます。

愛知県立大学の広場

2024年度の留学者数は237名!多くの県大生が留学プログラムに参加

── 愛知県立大学の留学プログラムには、どれくらいの学生さんが参加していますか?

2024年度は大学全体で237名の学生が留学をしました。特に外国語学部の学生は留学率が非常に高く、178名の学生が留学を経験しています。

交換・派遣留学は、68名、ショート・プログラムについては106名の学生が参加しました。

ちなみに、外国語学部の学生は約3割の学生が休学をして、半年から1年の長期留学にチャレンジしています。

休学中は本学の授業料がかからないので、長期の留学にも挑戦しやすいと考えています。

── 学生の皆さんに人気の留学先はどこですか?やはり英語圏が人気でしょうか?

英語圏はもちろん人気なのですが、本学の外国語学部はフランス語、スペイン語、ドイツ語、中国語、そして数年前にポルトガル語専攻もできまして、英語以外の言語も非常に充実しています。

そのため、それぞれ専攻している言語の国に留学する学生が多く、英語圏だけが特別に人気というわけではありません。

中には、専攻している言語以外の国にも、短期プログラムで留学する学生もいます。

外国語学部以外の学生の中には、「長期は難しいけれど短期で語学留学をしたい」という学生もおり、1ヶ月ほどのフィリピンへの英語プログラムに参加している人もいます。

フィリピンの英語プログラムは数年前から始めたのですが、交換・派遣留学に比べて挑戦しやすいので、気軽に参加していただけます。

── 交換・派遣留学は定員があるかと思いますが、もし定員以上の申し込みがあった場合、選考はどのように行われますか?

基本的には、関係する学科の教員が面接を行い、志望動機や語学力等から総合的に審査しています。

奨学金制度「はばたけ県大生」で留学費用の負担を軽減

── 愛知県立大学には留学費用に使える奨学金制度はありますか?

本学独自の奨学金制度として、「はばたけ県大生」奨学制度を用意しています。

この奨学金制度は、学部生および大学院生の個人による国内外の自主活動を奨励するためのもので、留学費用としても活用できます。給付型の奨学金制度なので、返済義務はありません。

また、スペインやラテンアメリカへの留学や研究を対象とした「菅愛子奨学事業」というものもあります。この奨学金事業は、故菅愛子名誉教授の遺志によりが設立したもので、毎年募集を行っています。

学外の奨学金制度ですと、日本学生支援機構(JASSO)海外留学支援制度があります。こちらは協定大学への留学者を対象に支給される奨学金です。
年度によって枠数が異なるのですが、学内で選考を行い、JASSOに推薦する形で応募します。採用されると、留学先によって、月額8万円~11万円の奨学金が留学期間中受給できます。

その他、地方自治体や民間団体、外国政府が募集している奨学金制度については、留学を希望する学生に随時情報提供を行っています。

留学に関する相談は「留学支援室」で随時受付中

── 留学について相談したり、情報収集ができる場所はありますか?

愛知県立大学には留学支援室というものがありまして、教員1名と職員5名が在籍しており、そこで留学相談や情報収集ができます。

留学支援室では、海外協定大学への学生派遣や、交換留学生の受け入れ、留学関係のイベントの企画・運営を行っています。

協定留学の説明会の実施や募集・申し込み、オリエンテーション、留学後の報告会など、留学関係のさまざまな業務を担っています。

留学支援室では、資料や書籍、先輩たちが残してくれた留学の記録なども閲覧可能です。

随時相談を受け付けていますので、留学について気になることがあれば、いつでもご相談ください。

また、留学支援室以外でも協定大学については学部の先生にも詳しい方がいらっしゃるので、先生に相談していただいても良いと思います。

── ちなみに、学生さんからよくある相談はどのようなものがありますか?

相談内容はさまざまですが、やはり「留学をしたいけれど、何から始めていいのかがわからない」という相談が多いです。

また、「留学を目指して自分で色々と調べてはいるものの、自分に合った留学方法がわからない」といった相談や、「行きたい協定大学があるが、語学要件が満たせるかどうか不安」といった相談を受けることもあります。

留学支援室が主に扱っているのは協定大学への留学になるので、協定留学については深いアドバイスが可能です。

中には自分で手配する留学の相談をしに来る学生もいます。その場合は、あまり深いアドバイスは難しいのですが、できる範囲でのサポートはさせていただきます。

留学前・留学中・留学後のサポートも充実

愛知県立大学の授業の様子

── 留学が決まった学生向けの語学や留学準備に関するサポートはありますか?

先ほど紹介した留学支援室では、留学が決まった学生向けのオリエンテーションを数回に分けて実施しています。

ビザの取得方法や、宿舎の予約方法などはこのオリエンテーションで学ぶことができます。

また、毎年2回危機管理セミナーを開いており、保険会社の専門家を招いて、海外でのリスクについてお話していただいています。このセミナーは海外渡航予定の学生は受講必須です。

語学支援については、iCoToBa(アイコトバ)という多言語学習センターがあるのですが、そこでさまざまな講座を開講しています。

たとえば英語については留学前講座や、TOEFL・TOEIC対策講座といったものがあります。フランス語、スペイン語、ドイツ語、中国語の留学前準備講座も無料で開講しています。

その他、外国人の先生と予約制で外国語学習ができたり、発音クリニックも実施しています。

── 留学前のサポートが充実していますね。留学中や留学後のサポートについても教えてください。

協定大学に留学中の学生には、ポータルサイトを通じて毎月安否確認を行っています。

留学後は、留学経験を後輩に語ってもらう機会を設けており、自分自身の留学の振り返りができるようになっています。

留学後のキャリア支援については、キャリア支援室が中心になってサポートを行っています。

毎年、キャリア支援室と留学支援室が合同で「留学×キャリアセミナー」を開催し、企業の採用担当の方や、留学経験者で内定を得た学生の話を聞く機会を設けています。

「留学経験を就職活動にどう活かしていくか」とか、「企業は学生の留学経験に関してどういうことを期待しているか」といったような話を聞くことができ、留学後の学生だけでなく、留学を検討している学生も積極的に参加しているようです。

── 留学に特化したキャリアセミナーも行っているんですね。就職率99.8%(2025年3月卒業生の就職実績)というデータからも、キャリア支援の充実さが窺えます!

iCoToBaや交換留学生との交流で日本にいながら言語や文化が学べる

愛知県立大学 iCoToBa

── 先ほど多言語学習センターのiCoToBaがある、ということでしたが、留学しなくてもグローバルな視野を広げる仕組みはありますか?

そうですね。やはりiCoToBaがメインになるかと思います。iCoToBaは、留学予定の有無に関わらず、すべての学生が利用できる施設です。

ネイティブの先生による語学プログラムを受講できたり、e-ラーニングを使った自主学習ができたりするのですが、留学生との交流も盛んに行われています。

iCoToBa Supporters Clubの学生がボランティアやイベントを企画し、留学生が来る学期の始めにはウェルカムイベントを開催したり、七夕やハロウィン、クリスマスといった季節のイベントを行ったりしています。

※ iCoToBa Supporters Clubとは、iCoToBaのイベントや留学生との交流の企画運営を行う学生の団体。

イベントの際は、多くの学生が集まって色々な言語が飛び交う空間になるのです。

iCoToBaには映画のDVDや各国語の雑誌等も置いているので、授業の合間に気軽に利用していただければと思います。

── 他にも異文化体験ができたり、留学生と交流ができる機会はありますか?

交換留学生と県大生が同じ授業を履修し、共同でグループワークをする授業があります。

「Japan Seen from Outside」は、留学生と日本人学生が、日本の生活と国際社会における日本のイメージなどについて英語で語り合う授業です。

また「比較文化社会」の授業では、世界各地から来た留学生と県大生が互いの文化を紹介し、比較し合いながら、多言語・多文化の現代社会を体感し、共同してグローバル新時代を描いていくことを試みています。

愛知県立大学が目指すのは「学生が留学に興味を持てる環境作り」

── 今後のグローバル教育や留学制度において特に力を入れていきたいことを教えてください。

愛知県立大学の多言語教育や海外留学制度は、全学に開かれてはいるのですが、外国語学部以外の学生の参加が残念ながら少ないのが現状です。

外国語学部に入学する学生、特に英米学科や国際関係学科の学生は異文化理解や留学に対する意識が高いです。

この点は本学の強みでもあるのですが、一方で外国語学部以外の学生は、異文化理解や留学を自分とは関係のないものと考える傾向があり、それが課題の一つでもあります。

ですが、多言語教育や海外留学の経験は、学部を問わず大切なことです。

そのため、語学の勉強だけでなく、異文化体験といった、外国語学部以外の学生が参加したくなるようなプログラムを企画していきたいと考えています。

そして、今よりもさらに多くの学生に留学に興味を持ってもらえたら嬉しいです。

愛知県立大学の留学情報はWebサイトをチェック!

── 中学生・高校生が愛知県立大学の留学制度を知りたいと思った時に、どの情報を見るのが一番わかりやすいですか?

そうですね。やはり愛知県立大学のWebサイトが一番わかりやすいと思います。

「留学・国際交流」のページがありまして、そこから海外協定大学・機関や、海外留学支援、iCoToBa(多言語学習センター)などのさまざまな情報を得ることができます。

Webサイト以外では、「留学のてびき」も参考になるかと思います。愛知県立大学のWebパンフレットにも留学や学内のグローバル教育について記載されているのでぜひご覧ください。

また、オープンキャンパスでは留学説明会も実施していますので、ぜひご参加ください。

愛知県立大学から受験生へのメッセージ

愛知県立大学の正門

── 最後に、受験生の皆さんにメッセージをお願いします!

受験生の皆さんは、現在18歳ぐらいだと思いますが、これからの人生は60年以上あります。

これからの60年、皆さんが生きていく社会は、少子高齢化とグローバル化の中で、外国人労働者や移民が増えていくと考えられます。

そのため、外国人労働者や移民を排除するのは現実的ではありません。異文化理解と多文化共生の理念を大切にして、安定・調和した社会を築いていかなければならないのです。

そうすることで、グローバルな平和にもつながっていくと考えています。

異文化理解や多文化共生の理念が求められる社会になることは、すでに決まっています。

そういう社会に巣立つ前の4年間を、愛知県立大学で過ごしていただき、理系・文系問わず、また海外に飛び出す人もそうでない人も、異文化理解と多文化共生を大切にする心構えを身に付けた社会人になってほしいと考えています。

── 本日は貴重なお話をしていただき、ありがとうございました!

愛知県立大学の基本情報

大学名 愛知県立大学
学部 外国語学部、日本文化学部、教育福祉学部、看護学部(守山キャンパス)、情報科学部
学部・大学院
所在地(住所) ・長久手キャンパス
愛知県長久手市茨ケ廻間1522-3
・守山キャンパス
愛知県名古屋市守山区上志段味東谷
留学プログラム 交換留学、派遣留学、ショートプログラム、ダブル・ディグリープログラム、認定留学
海外留学支援
大学公式HP https://www.aichi-pu.ac.jp/
SNS 愛知県立大学 公式X
愛知県立大学 公式YouTube
愛知県立大学 学生広報スタッフ「探・県大(たんけんたい)」(学生広報スタッフが運用する公式アカウント)

※ 取材時の情報を掲載しています。

異文化理解・多文化共生の社会を生き抜く力を育む!愛知県立大学の取材後記

グローバル化が特に進んだ愛知県というフィールドは、異文化理解・多文化共生を学ぶのに最適な環境です。

そのような地域にある愛知県立大学では、異文化理解・多文化共生を学べるカリキュラムや留学制度が大変充実しています。

また、県立大学は休学中の学費がかからないため、「休学して留学する」という選択がしやすいのもメリットです。(私立大学では休学中も「在籍費」などの名目で費用が発生する場合が多いです。)

この充実した留学制度を知らない学生さん、知っていても参加には至らない学生さんがいると伺い、非常にもったいないというのが正直な感想です。

今後は学内での異文化体験プログラムを充実させたいとおっしゃっていたので、これから入学する学生さんは、さらに充実したグローバル教育を受けられることが期待できます。

愛知県立大学の公式ホームページには、留学や国際交流に関する情報が非常に充実しているので、是非ご覧ください。

「留学のてびき」や「愛知県立大学生のための海外留学安全ハンドブック」もWebで閲覧でき、とても参考になるのでおすすめです。

取材日:2025年8月26日
取材/文:富澤 利恵
写真提供:愛知県立大学