多摩美術大学の留学制度

多摩美術大学は、東京都世田谷区と八王子市に2つのキャンパスを持ち、絵画、彫刻、工芸、デザイン、建築、映像、演劇、舞踊、芸術学など、アート、デザインから身体表現までを網羅する10学科と大学院を設置する美術系総合大学です。 

「多摩美(たまび)」の愛称で親しまれ、これまで多くの芸術家やデザイナーを輩出してきました。

そんな多摩美術大学は、国内トップクラスの美術大学として、海外での学びや制作の機会も大切にしています。

アジアやヨーロッパなど世界各国の芸術系大学への交換留学や、「多摩美TRY」と名付けられた短期集中語学プログラムなど、多彩な留学制度を通して、世界で活躍できるクリエイターの育成に力を入れています。

今回は、多摩美術大学で留学を志す学生のサポートを行う国際交流課の摩庭(まにわ)さんに、多摩美の留学制度や、各プログラムの魅力についてお話を伺いました。

美術大学ならではの、留学のポイントについてもしっかり伺いましたので、ぜひご覧ください。

世界トップクラスの美術大学で学ぶ。多摩美術大学の交換留学

多摩美術大学 アメリカ留学の様子

── はじめに、多摩美術大学にはどのような留学制度がありますか?

多摩美術大学の留学制度で、まず大きな柱となっているのが「交換留学」です。原則として3年次後期に、海外の協定校で学ぶプログラムになっています。留学期間は協定校によって異なり、3か月〜6か月となっています。

2年次に申請・選考を行い、その後約1年間かけて準備を進めてから渡航します。1・2年次は大学で基礎力を身につけ、3年次に海外で専門性をさらに深めるという流れです。

留学先では、授業を受けるだけではありません。現地の学生と交流しながら、調査(リサーチ)・議論(ディスカッション)・制作・講評といった基本のプロセスを繰り返すことで、自らの感覚やアイデアを論理的に形にする力が養われます。

同時に、文化的背景の異なる人々と思考をぶつけ合う中で、独自の表現を追求する自己探求力と、グローバルな視野で社会に機能するデザインを探求する力が育まれます。

── 留学先にはどのような大学がありますか?人気の協定校を教えてください。

多摩美術大学は、美術やデザイン分野で世界的に評価の高い大学と協定を結んでいます。

たとえば、アメリカのプラット・インスティテュート、イギリスのチェルシー・カレッジ・オブ・アーツ、フランスの国立高等装飾美術学校、台湾の国立台北芸術大学などが挙げられます。

中でも人気の留学先が、ドイツのベルリン芸術大学です。ヨーロッパを代表する芸術大学の一つで、制作だけでなく、音楽をはじめとしたさまざまな芸術分野に触れられます。

多摩美術大学 ベルリン芸術大学の様子

他にも、理論や研究を重視する協定校では、作品制作に加え、論文執筆などアカデミックな学びを深めることもできます。留学先によって学べる内容や制作環境はさまざまです。

それぞれの大学ならではの哲学や文化に触れながら、自分の表現の幅を広げられることも、多摩美術大学の交換留学ならではの魅力です。

タイと日本で2つの修士号を取得!多摩美術大学のダブルディグリー

多摩美術大学 シラパコーン大学授業風景

── 交換留学のほかに、特徴的なプログラムはありますか?

本学が力を入れているプログラムの一つが、「ダブルディグリー(Master’s Double Degree Program/MDDP)」です。

MDDPとは、一定の条件を満たすことで、海外と日本の大学、両方の学位取得を目指せる制度です。多摩美術大学では、長年交流を続けてきたタイのシラパコーン大学と、2024年にMDDPを開設し、2025年より運用をスタートさせました。

高い専門性や語学力が求められるプログラムですが、日本とタイを行き来しながら、2つの大学の修士号取得を目指せる、貴重な機会となっています。

── タイは芸術やデザインの分野でも有名なのでしょうか?

はい。近年、タイは伝統工芸から現代アート、デザインまで幅広い芸術文化が発展し、アジアのクリエイティブ拠点の一つとして注目されています。

その勢いを肌で感じられるのが、現地屈指の名門であるシラパコーン大学です。本プログラム自体はスタートして間もないものの、これまでに交換留学などを経験した学生からは、「事前申請すればアトリエを24時間利用できる」「日本とは異なる自由な制作環境が新鮮だった」といった驚きと満足の声が寄せられています。

同校にはタイのアート&デザイン界を牽引する優秀な人材が集まっており、多摩美術大学の学生にとっても、大きな刺激を受けながら自身の表現を磨ける最高の環境が整っています。

初めての海外留学でも挑戦しやすいプログラム「多摩美TRY」

多摩美TRYメルボルン1

── 初めて海外へ行く学生向けのプログラムはありますか?

多摩美術大学では、海外渡航や留学に初めて挑戦する学生でも参加しやすい「多摩美TRY」を実施しています。

ハワイ・ホノルルまたはオーストラリア・メルボルンで行う、約2週間の短期集中語学プログラムです。

午前中は語学を学び、午後は現地ならではのアートや文化に触れるオリジナルアクティビティに参加します。たとえばメルボルンでは、グラフィティアートで有名なエリアを見学し、学生自身が作品制作にも挑戦します。

多摩美TRYメルボルン2

── 海外の街を舞台にアート制作できるなんて、貴重な体験ですね!

さらに、実践的な学びを重視した「多摩美TRY+(プラス)」も実施しています。

「多摩美TRY+」では、イギリスの名門芸術大学のひとつであるボーンマス芸術大学で約2週間学びます。映画制作の基礎から撮影、編集、上映までを実践的に学ぶほか、午後には英語のクラスもあり、制作と語学の両方を学べるプログラムとなっています。

応募には基礎的な英語力が必要ですが、映画制作の経験は問いません。そのため、「映画制作に挑戦してみたい」という意欲があれば、どの学科の学生でも参加できます。

「留学には興味があるけれど、いきなり長期留学に挑戦するのは不安」という学生は、「多摩美TRY」や「多摩美TRY+」といったプログラムで世界への第一歩を踏み出してほしいと考えています。

留学を後押しする、多摩美術大学の充実した奨学金制度

── 続いて、奨学金制度について教えてください。

多摩美術大学では、交換留学の選考に合格し、留学が決まった学生に大学から一律20万円の奨学金(返済不要)を支給しています。ちなみに、多摩美術大学に所定の学費を納入することで、協定校の学費は免除されます。

また、「多摩美TRY」では、2週間のプログラムに参加する学生向けに10万円の奨学金(返済不要)も用意しています。

さらに、国の海外留学支援制度による奨学金や、「トビタテ!留学JAPAN」「デザインフィル社会文化貢献基金」「公益財団法人 江副記念リクルート財団 リクルートスカラシップアート部門 奨学金」など外部の奨学金を活用する学生も多くいます。

なお、MDDPには奨学金制度とは別に強力な学費サポートがあります。多摩美術大学へ学費を納めることで、シラパコーン大学の学費が全額免除されるだけでなく、3年目の最終半期(0.5年分)における多摩美術大学の学費も全額助成されます。

── 他にも、経済的な支援制度はありますか?

特徴的な制度のひとつが、「国際交流活動運営費」です。各学科や専攻、コースが企画する海外でのワークショップや学生交流を支援する、多摩美術大学独自の制度です。

各学科が企画を立案し、学内の審査を通過すると、参加する学生1人あたり10〜15万円の支援を受けることができます。

多摩美術大学 作品制作を行う学生たち
塩田千春特任教授の指導のもと作品制作を行う学生たち

この制度を活用することで、交換留学や「多摩美TRY」では経験できない、専門分野に特化した短期の海外交流にも挑戦できます。

本制度を利用して留学する学生は年々増えており、多摩美術大学ならではの特色ある国際交流プロジェクトを支える制度として活用されています。

多摩美術大学の国際交流課が留学準備を徹底サポート

多摩美術大学 国際交流の様子1

── 多摩美術大学の留学サポートについて教えてください。

本学では、国際交流課が留学の入口から出口までサポートすることを大切にしています。
留学に興味はあるものの、何から始めればよいかわからない学生には、国際交流課の窓口で一人ひとりと話をしながら、留学プランを一緒に考えていきます。

また、国際交流課には、海外経験豊かな職員が多数在籍しています。英語学習や留学生活の不安へのアドバイスはもちろん、中国語や韓国語の語学相談にも幅広く対応できます。さらに、欧米の大学院で学位を取得した職員もいるため、高度な留学やキャリアアップを目指す学生にとっても、心強い相談環境が整っています。

近年は、世界の名門大学の修士課程(大学院)への進学に挑戦する学生も増えています。これまでに、国際交流課のサポートを最大限に活用し、合格を勝ち取った多摩美生が毎年のように誕生しています。

── 美術大学ならではの留学サポートには、どのようなものがありますか?

国際交流課では、留学を目指す学生に向けたスキルアップ研修を実施しています。

中でも美術大学ならではなのが、「留学用ポートフォリオ講座」です。海外の大学では、これまで制作した作品をまとめたポートフォリオ(作品集)の提出を求められることが多く、その作り方を基礎から学ぶことができます。

本研修の講師は、海外大学院への留学経験を持つ本学の卒業生です。留学用のポートフォリオ作成を先輩に直接指導してもらえる環境が、学生たちの間で高い人気を集めています。
また、「英語プレゼンテーション研修」では、日本と西洋のプレゼンスタイルの違いを、ネイティブ講師から学びます。美術大学への留学では、作品を見せるだけでなく、「なぜその作品を制作したのか」を自分の言葉で伝える力も大切です。

多摩美術大学では、こうした留学前の準備も学生任せにせず、一人ひとりを手厚くサポートしています。

多摩美術大学「留学用ポートフォリオ講習」

── 実際に、交換留学に参加するにはどのくらいの語学力が必要なのでしょうか。

交換留学に必要な語学力は、「努力すれば十分に達成できる」と感じられるレベルです。基準としては、TOEICは520点以上、TOEFL iBTは41点以上、IELTS Academicは4.0以上が目安となっています。

ただし、英語力と同じくらい大切なのが、美大生ならではの「ビジュアルコミュニケーション力」です。作品やスケッチ、制作のプロセスを通して、自分の考えやアイデアを伝えられることが大切になります。

「もの(制作物)」で伝えられるのは、美大生の強みです。そのため、普段から英語の学習に加え、自分の表現力も磨いてほしいと考えています。

── 語学力だけでなく、「表現する力」そのものが留学で生かせる。美術大学ならではの留学のポイントですね!

留学だけじゃない!世界とつながる多摩美術大学のキャンパス

多摩美術大学 芝生の上でおしゃべりする学生たち

── 留学に行かなくても、キャンパス内で国際交流を経験できますか?

多摩美術大学の大きな特徴の一つが、留学に行かなくても国際的な環境に触れ、多様な文化を身近に感じながら、日々の学生生活の中で新しい視点や刺激に出会えることです。

学生の10人に1人以上が留学生という環境のため、日常の中で多様な文化や価値観に触れることができます。昼休みには、国際交流課や広場に学生が集まり、自主的に語学を学ぶ姿も見られます。

実際に、留学経験のない学生が、4年間にわたって学内の国際交流活動に参加し続けたことで、海外大学院進学を目指せるレベルまで英語力を伸ばした例もあります。

── 国際交流に関するイベントには、どのようなものがあるのでしょうか。

年4回開催される国際交流パーティーには、多い時で200人以上の学生が参加します。

語学系・国際系の大学ではない美術大学で、これだけ多くの学生が集まる国際交流イベントが継続的に開催されているのは、多摩美術大学の特徴の一つではないかと感じています。

また、学内では「Tama International Circle」や「スピーキングしましょうの会」など、学生主体の国際交流活動が活発に行われています。

このように、多摩美術大学のキャンパスは世界とつながる入口そのものであり、留学に行かない学生も国際交流が経験できます。

多摩美術大学から留学に挑戦したい高校生へメッセージ

多摩美術大学 国際交流の様子2

── 最後に、多摩美術大学で留学に挑戦したい高校生へメッセージをお願いします。

多摩美術大学には、多様な文化を持った留学生が共に学び、国際交流イベントなどを通じて、学生同士が自然に刺激を与え合える環境があります。まずは、そうした環境を積極的に活用してほしいと思っています。

そのうえで、ぜひ留学にも挑戦して、さらに視野を広げ教養を深めて欲しいです。

私たちがお伝えしたいのは、多摩美術大学に入学した瞬間から、競い合う相手は世界レベルのクリエイターたちになるということです。

美術やデザインの世界において、国境はありません。だからこそ、広く世界へと目を向け、自らの表現領域を押し広げてください。異文化の風に触れ、作品にさらなる深みをもたらすこと。それこそが、クリエイターとしての高みへ上り詰める確かな一歩となるはずです。

「世界で学んでみたい」「自分の作品を海外で発表してみたい」という思いがある人は、ぜひその一歩を踏み出してください。

私たちも、その挑戦を全力で応援したいと思っています。

多摩美術大学の基本情報

大学名 多摩美術大学
学部 美術学部(絵画学科〔日本画専攻、油画専攻、版画専攻〕、彫刻学科、工芸学科、グラフィックデザイン学科、生産デザイン学科(プロダクトデザイン専攻、テキスタイルデザイン専攻)、建築・環境デザイン学科、情報デザイン学科(メディア芸術コース、情報デザインコース)、芸術学科、統合デザイン学科、演劇舞踊デザイン学科(演劇舞踊コース、劇場美術デザインコース))※2027年4月より版画専攻は版画・プリントメディア専攻に名称変更
所在地(住所) 【上野毛キャンパス】東京都世田谷区上野毛3-15-34
【八王子キャンパス】東京都八王子市鑓水2-1723
留学プログラム 交換留学、ダブルディグリープログラム(Master’s Double Degree Program)、多摩美TRY、多摩美TRY+、国際交流活動運営費を活用した各学科・専攻・コース主体の国際交流活動
大学公式HP https://www.tamabi.ac.jp/
SNS 【全学】
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国際交流課のWebページ
留学ハンドブック(留学に関するパンフレット)

※ 取材時の情報を掲載しています。

【取材後記】「世界で学び、世界で創る」多摩美術大学の魅力

多摩美術大学の留学制度について取材をしてみると、その充実ぶりは想像以上でした。

美術の専門分野に特化した大学だからこそ、一般的な留学制度とは異なり、世界的に知られる芸術系大学への交換留学や、海外で制作に取り組めるプログラムが充実しています。

また、印象的だったのは、国際交流課のサポート体制の手厚さです。窓口は相談しやすい雰囲気で、一人ひとりの状況に合わせて丁寧に支援してくれます。そのため、初めて海外に挑戦する学生でも、「自分にもできるかもしれない」と感じられる安心感がありました。

一方で、美術系の留学は準備期間が長く、その分、事前の計画性が求められます。語学力の向上だけでなく、留学用ポートフォリオの制作や情報収集など、取り組むべきことはたくさんあります。

多摩美術大学には、その準備を支える研修制度も整っています。「留学に向けた準備をどこまでサポートしてくれるか」という視点で大学を見てみることも大切だと感じました。

留学に興味がある高校生は、オープンキャンパスや大学のSNSを活用して、早いうちから情報を集めておくのがおすすめです。オンライン型のオープンキャンパスを利用すれば自宅から気軽に参加できます。

多摩美術大学の留学制度、そして学生を支える環境を、ぜひ確かめてみてください。

取材日:2026年6月24日
取材/文:永谷 知香
写真提供:多摩美術大学 広報課/国際交流課